ノベルゲーム「贖罪と命」を読了しました。

今回は、「万年筆と神経毒」の神無月ミズハさんによるノベルゲーム「贖罪と命」をプレイさせていただきました。なかなか難解な作品であり、内容をしっかりと理解できた自信は全然ないのですが、自分なりに感じたことを書いてみたいと思います。
以下、ネタバレ注意。



ノベルゲーム「贖罪と命」は、弟を殺してしまった主人公の変化を描いた作品で、彼が書いた手記を読んでいくという形で話が進行していきます。ただ、読んですぐに分かるのですが、彼の物事の認知、思考はかなり独特です。それが本作品の魅力でもあるし、少し読み手を選ぶところでもあると思いました。例えば、彼の倫理観。作中には「殺したのは間違った事と分かる」、「ネグレクトは人間としてあるまじき行為だ」といった表現が出てきます。彼は「誤ったこととされているから駄目」という認識のもとで善悪を判断する面が強いようで、「相手に申し訳ないから」といった情緒的な理由についてはほとんど述べないんですよね。こうした彼の特性に、当初はかなり面喰いました。他にも、共感性の乏しさや、外界で起こる出来事について根拠のない意味付けをするところ等も彼の特徴であると感じます。
総じて彼の独白は、なんとなく理解できたとしても共感するのは難しい部分が多かったです。しかし、そんな彼が自身の生きる渇望を自覚し、生きることの美しさに気が付いていく過程は、心に響くものがありました。

さて、先ほども申し上げた通り、僕は彼に共感できる部分がそこまで多くありませんでした。弟を殺してしまったり、飼っている魚を躊躇なく殺してみたり……。「なんでそんなことするんだ」、「どうしてそんな風に考えるのか」と戸惑うことも多々ありました。
ただ、本作品をより深く楽しもうとするならば、一番大切なのは彼の内面を理解しようと努めることだと考えました。
そこで今回は、僕なりに「彼はどんな人間なのか」と考えてみましたので、その点を重点的に書いていきたいと思います。

彼の独特な特性はいくつもあげることができますが、その中で僕が特に興味深いと感じた点は2つあります。それが「他者への共感の乏しさ」と「『他者には理解しがたい自己』を愛する心」です。
まずは「他者への共感の乏しさ」について。
彼は、相手を情緒的に理解するという能力が乏しいと感じます。弟を殺して以降、彼はそれまで以上に苦しむようになります。しかし、「痛かったろうな」とか「申し訳なかった」とか、弟に同情したことが伺える発言はほとんど出てきません。先述した独特な倫理観についても、そのベースには他者に共感しにくいという彼の特性があると感じました。

もう1点は、「『他者には理解しがたい自己』を愛する心」についてです。
彼は自己肯定感が低く、自己をまっとうではない人間としてみなしていることが繰り返し語られます。しかしその一方で、僕は彼の中に強い自己愛があるとも感じました。
彼は、「他者はこの心を深く理解することが出来ないだろう」と強く信じているように思います。例えば、施設に大学生がやってくるシーン。彼らは明らかに、平凡な価値観をもって子供たちに接する愚かな人間として描かれています。なぜこのシーンが描かれたのでしょうか。その理由を考えていくと、他人に理解されないその独自性を彼はどこか誇らしく思っている節があるように感じるのです。
また、本作品が手記として書かれた点についても、彼の自己愛が少なからず関係しているように感じました。
本作品は、「彼が一人称で語っていく物語」という形にすることもできたはずです。それなのに、なぜわざわざ手記という手法をとる必要があったのでしょうか。それは、一人称の物語という形式にしてしまうと、読み手という他者を想定し(ある程度は)分かりやすく語らねばならないことが関係しているように思います。「他者にこの心は深く理解できないだろう(あるいは、理解したつもりになってほしくない)」と考えている彼が他者に向けて自己を語っていくのは、なんだか違和感があります。一方、手記であれば「他者に向かって語った訳ではない」という格好になります。それが彼の内面を描く上で都合がよかったのでは、と感じました。

なお、断っておきますが、僕は彼が自己愛をもつからといって批判するつもりは全くありません。どれだけ理性に虐げられようとも、人は根底のところで自分を愛する気持ちを持たずにはいられない。そういうことだと思います。個人的には、自己愛は彼の言う「生への渇望」とも通じるところがあるように思いました。

彼の中にはいくつかの相反する思いがあるように感じます。
自己嫌悪と自己愛。
他者を拒絶する思いと他者を必要とする思い。
そして、希死念慮と生への渇望。
複雑な内面を形成するに至ったのは、彼が生まれ持った気質が多分に関係していると思うし、養育環境も確かに関連しているのでしょう。
彼は、今後の人生でも少なからず苦痛を感じていくはずです。しかし、それを理解しながらも生きていこうとする彼の姿は、美しいと思います。僕は、彼が自首を選択したことを強く支持します。罪を告白するということはつまり、自身の内面の重要な部分を周囲に公開するということです。今後、彼は自己と世界とのつながりを嫌でも少しずつ深めていかねばならなくなるでしょう。しかしそうした中で、彼の内面はまた違ったもの変化していくのではないかな、と思いました。

だいたいこんなところでしょうか。
今回は内容を理解するのがなかなか難しく、僕も勝手な推論で書いてしまったところが多々あります(笑) ただ、自分が感じたことを素直に書くことが誠意かな、という気もして素直に書かせて頂きました(問題あれば変更させて頂きます)。
彼との比較を通して自身の内面も振り返ることが出来て、たいへん良い読書体験ができたと感じます。少し癖のある作品ですが、興味を持たれた方は是非読んでみてください。

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