ナルキッソスから見える、「物語」に望まれている形。

いわゆる「フリーゲーム」をやったことのある人なら、誰でもご存知なのではないでしょうか。プロの方が作られた、フリーゲームにしては異様なクオリティの高さで有名です。主人公、ヒロインの両方が不治の病にかかっていると言っただけでもとんでもない「鬱ゲー」だとお分かりでしょうw
さてこのナルキッソス、プレイした方の賛否両論がかなりはっきりと分かれているようです。「素晴らしいと思う」「泣いた」などの意見がある一方で、「何がいいたいのか分からない」「テーマがなんなのか分からない」という意見も見られる。ここまではっきりと評価が分かる作品も珍しいと思います。興味深いのは、否定派の皆さんも「絵が下手」とか「音楽がダメ」などといったことは述べていないこと。彼らはストーリーの救われなさに文句を言っています。しかしながら、それは賛成派の人にいわせれば素晴らしい点でもあるのです。素晴らしいと評価される点と、全然ダメと評価させる点が同一のものである。これは、そうそうある現象ではないことではないでしょうか。
悲しい結末を迎えてしまうストーリーは、そんなに珍しいものではありません。「世界の中心で愛を叫ぶ」も、ヒロインは死んでしまいますし。そう言った作品と、ナルキッソスでは何が違うのか。九州壇氏は少し考えてみました。おそらく、数多くの悲劇には、生きることの素晴らしさが語られていることが多いのではないかと思います。例えば、ヒロインは死んでしまうものの、主人公は彼女の死を乗り越えて前向きに進んで行こうと決意する…。悲しい結末であるものの、プレイヤーはそれによって生きる素晴らしさを感じることが出来る。生きていくことが素晴らしいと思うことが出来る。
では、ナルキッソスの場合はどうかといいますと。最後の最後まで、救いは何もない終わり方です。ヒロインであるセツミは不治の病を抱えたまま、海で自殺して終わる。主人公もまた、治ることのない病を抱えたまま、ひっそりと死んでいくのでしょう。最後の最後まで、「生きていることは素晴らしい」とか、「なんとしてでも生きるべきだ」というようなテーマは感じられず、絶望的なまま物語は終わります。否定派の方々は、このストーリーから何がいいたいのか分からないとおっしゃっている。それは、言い換えれてしまえばこういえるのではないでしょうか。
「生きることに対して否定的なテーマなど理解できない。誰かが死ぬような物語であるならば、生きることの素晴らしさ、もしくは何らかの救いを提示するべきであり、そうでない作品は受け入れられない。」
彼らは悲劇の物語の中に、「救い」があるべきだと考えているのではないかと思います。
さて、私、九州壇氏はどうかと申しますと。この作品を評価しています。救いはないし、読んでいても暗くなるばかりであるのは間違いない。しかし忘れてはならないのは、彼らのような境遇にある人々はたくさんいるということです。九州壇氏も通っている大学の性質上、ホスピスというものを実際に見たことがあります。がんに侵されて、どうしても助からないという人々は、こちらがなんと言おうと、自分の境遇を嘆かずにはいられないのです。九州壇氏は元気で毎日を送っている。彼らは死ぬ日が近いというのに狭い病室に閉じ込められている。その存在を、みるべきでないものとして世間から隔離されている。未来のない者が、元気に走り回っていた世界を見て、絶望的になるというのは理解しがたいことなのか。自分が世界から拒絶されたと感じるのは、果たして紺作のヒロイン、セツミだけなのか。健康に生きている者は、死が近い彼らにもまた希望を持って生きていて欲しいと思っています。(これだけでも、少し身勝手な考えなきもしますが。)しかしその一方で、私達は彼らを、つまりは「死」を見てみないふりをしている。これは大きな矛盾であるように思われます。この作品は、私達の触れて欲しくないところを、「良い物語」で済ませてしまいたい世界を、敢えて描いているように思われるのです。
この物語の中に最後まで希望らしきものが見当たらないと言って不満を言っている方は、実際にこうして死んでいく人々がたくさんいるということを忘れている気がします。ハッピーエンドとは言いがたいこの物語は、幸せなものしか見たがらない私達に警告を発しているように思われるのです。絶望的な状況で、それでも救いを求める少女に、私達はできることはないのか。ただ、見えないものとして隔離してしまうこと以外には出来ないのか。管理人の評価は置いておくにしても、死を意識させ様々な議論を生んだ「ナルキッソス」は、客観的に見ても名作といえるのではないでしょうか。
「死」と嫌でも向き合わされるのは誰でも気持ちがいいものではないでしょうが、未プレイの方は一度プレイする価値があると思います。ここまで読んでくださったあなた、今日は長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。

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